BOOK

小説読みまくった。

YouTubeを見てくれている人はご存じかと思いますが、声帯の治療のため休業しています(2025年5月現在)

きょん
きょん

五月病じゃないよ

治療はひたすら声を出さない、というもの。これがやってみるとなかなかに苦痛である。何しろ誰とも会わない。ここまで人とコミュニケーションを取っていないのは久しぶりだ。

「無人島に持っていくとしたら何?」みたいな質問があるけど、実際無人島に行ったらこんなもんじゃないんだろうな、と思う。人と会うことは大事だ。

というわけで自宅という無人島で私がやっていることは。

読書。

それも小説。

本来、私は大の小説好き。20代の頃は調子いいときは1日2冊のペースで読んでいた。サラリーマン時代、夜勤のときは職場に小説を持ち込んで仕事しながら読んでいた。(すみません。でも、やることはやっとりました。時効ということで😗)

最近あまり小説読めてないなあ、と思っていたところだ。この際まとめて読んでやろう。時間はある。金はない。あの頃と何も変わっていない。

そんなわけで、ひさしぶりに小説を読みまくったので読書日記のはじまりはじまり。

ハンチバック 市川沙央

第128回芥川賞受賞作。ミオチュブラー・ミオパチーという筋肉が成長しない疾患を持つ主人公の話。作者自身がこの病気であり、授賞式に車椅子で来ていた様子がテレビで写されていたのが記憶に新しい。

ただただ生々しい作品。ハンチバックとは「せむし」を指す。緻密に言語化された障害者目線の世界は、健常者の想像の斜め上を行く。時におぞましい言葉も出てくるが、どこか奥底に愛嬌があり、芥川賞選考委員の山田詠美が表現した「チャーミングな悪態」という言葉が一番しっくりくる。

蓮のまわりの泥みたいな、ぐちゃぐちゃでびちゃびちゃの糸を引く沼から生まれる言葉ども。だけど泥がなければ蓮は生きられない。

この一文はなんか刺さった。どう転んでもできないことにはあきらめがつくが、できそうでできないことには苛立つ。健常者があたりまえのようにやっている立場に立てない。苛立つ主人公の気持ちが、ぐちゃぐちゃでびちゃびちゃの糸を引く言葉として現れる。

しかし、読んでいて気分が悪くなるような小説ではなかった。むしろ外に開けていて明るささえ感じられる。発声で悩む自分自身にも励みになる一冊だった。もちろん私の病気程度では比べることもできないが。

余談として、ちょっとマニアックな仕掛けもあった。「賭博黙示録カイジ」の作者の福本伸行の漫画「銀と金」で、森田が画商の中条に仕掛けた「金の橋」を思わせるシーンがある。たしかに伏線で福本伸行の漫画を読んでるかどうかの話が出てくるけど…

きょん
きょん

銀と金は福本伸行の最高傑作だと思う

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国宝 吉田修一

第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞受賞と、非常に評価の高い作品。6月には映画も上映される。

これは面白い。ぶっちゃけ最近読んだ小説の中で一番面白かった。

1964年の長崎。ヤクザの息子立花喜久雄が、父親の一家が潰されたのちに大阪の歌舞伎の家に引き取られ、一流の女形を目指す話。歌舞伎の世界はまったく興味がなかったけど、これ読んだら実際の歌舞伎を生で見てみたくなった。

きょん
きょん

わたしもある意味では女形だからね

文章は谷崎潤一郎がよく使う、いわゆる「ですます調」で、これも作品の世界感に合っていて味がある。品がありつつも、どこか荒々しい昭和の市井が頭に浮かんでくる。

各章ごとに、もっとも重大な事件が起こった瞬間に幕が下りる。その切り方がまた憎たらしく、続きが気になって次の章を読まずにはいられなくなり、夜更かしすることになる。

主人公はイケメンで若くして才覚を表すも、中盤はボロクソに苦しむ。早咲きが必ずしも幸せとは限らない。

長い小説なので映画にするとどうなるかわからないが、主人公喜久雄役はあの吉沢亮。めちゃハマリ役やん。吉沢亮の女装…いや女形はさぞかし様になることと思う。

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仮面の告白 三島由紀夫

今年は三島由紀夫生誕100年ということで、YouTubeでは著名の作家たちが三島由紀夫についてあれやこれやと論じている。そして何より私自身が、三島由紀夫が死んだ年齢と同じ45歳。運命的と言うにはロマンが過ぎるが、ともかく最近また三島由紀夫を読み直す機会を得た。

「仮面の告白」を含め、20代のころに代表的な作品はいくつか読んだんだけど、当時は全然ピンとこなかった。若い自分にはテーマが深すぎるというか、何だか読んでてワクワクしない。

村上龍、村上春樹、石原慎太郎、花村萬月、石田衣良、伊坂幸太郎、この辺を読んでたほうがワクワクする年頃だった。

さて、改めて読んだ仮面の告白。これは小説全体を通して主人公の「同性愛の告白」となっているが、三島由紀夫が本当に同性愛者かは、実は今も確証がない(三島本人ははっきりとカミングアウトしていない)現に三島は女性と結婚しており、子供もいた。

じゃあ「仮面の告白」は空想なのか? 

その内容はセクシャルマイノリティが読むと一目でわかる。これは空想で書けるものではない。ガチである。ここまで詳細な性癖は、実際に自分がそうであるか、事細かに当事者の体験談を取り入れるかでないと書けない。

しかし、三島由紀夫がゲイかどうかはぶっちゃけどうでもいい

事実、仮面の告白は「日記ではなく、小説」である。

小説でなければこの内容は全く別の何かになってしまう。そのことについては橋本治の著書「三島由紀夫とはなにものだったのか」に詳しい。

また、仮面の告白の主人公は単なる同性愛者というだけではなく、美しい肉体の男が殺されるところを想像し興奮するという性癖がある。

たとえば、作中で主人公が、画家グイド・イーニの描いた、腹に弓矢が突き刺さった聖セバスティアヌスの絵を見て興奮したとき、こう表現されている。

その絵を見た刹那、私の全存在は、或る異教的な歓喜に押しゆるがされた。私の血液は奔騰し、私の器官は憤怒の色をたたえた。この巨大な・張り裂けるばかりになった私の一部は、今までになく激しく私の行使を待って、私の無知をなじり、憤ろしく息づいていた。私の手はしらずしらず、誰にも教えられぬ動きをはじめた。

誰が読んでも「絵に勃起したのでヌキました」というだけの内容なんだけど、こんな風に書かれたら単なるオナニーも崇高な儀式に見えるだろう。

グイド・レーニ 聖セバステチャンの殉教 Wikipediaより引用

きょん
きょん

ちなみに主人公のオカズになったのはこの絵だ。モデルのセバスティヌアス自身もゲイであった、という説もある。

三島由紀夫についてはそのうち別枠で語ってみようかなと思う。僅か45年の生涯だが、生前に命題を残しすぎていて話すネタが尽きない。同性愛、死、美、破壊、筋トレ、仏教、輪廻転生、愛国、などなど。もはや一人万博状態である。

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バスタオル 福島次郎

もういっちょうBL小説、いや純文学。これは「蝶のかたみ」という本に収録されている福島次郎の短編。第115回芥川賞候補にもなっている。ただ、この本、文庫本もなく再版していないのでプレミアがついてしまって、現在アマゾンで7000円。偶然厚木図書館に置いていたので借りて読むことができた。やるじゃねえか厚木。

ストーリーは25歳の教師兵頭と17歳の生徒墨田の同性愛物語。17歳の生徒がバイト先の近くに住んでいる先生の下宿に寝泊まりし、少しずつ接近するうちに、互いに手コキしあう仲になる。今なら確実に炎上案件だが時代背景が昭和なのでギリセーフ。いや、完全にアウトか。

もちろん誰にも言えない関係である。先生と生徒というだけでもやばいのに男同士。題名のバスタオルというのは、事が済んだ後に二人の精子を拭くのに使っているバスタオルのこと。時代的にまだティッシュが無かったのか…なんとも。

兵藤と墨田がもし男女なら、たとえ明日一たん別れ別れになったとしても、互いにその気があればいつか「結婚」という形をとることが出来よう。一方が取り乱してあとを追いかけて行くハプニングが生じても、結婚という納まりがつけば、人はそれを愚行といわず愛というだろう。 (バスタオル 203項)

こんな感じで中盤までいい話なんだけど、ラストが良くない。

主人公の教師兵藤は、相手の生徒との関係が終わったあと、精子を拭きまくったバスタオルの汚さを見てふりかえる。

自分がこれまでしてきたことに対して激しい嫌悪感を抱き「これが男女なら子供を作ることができるのに、男同士だと悪臭を放つバスタオルしか残らない」と言う。

なんという自分勝手な男か生徒に手出してついでに精子も出しまくってたのに最後に逆ギレとは

てか、タオル洗えよ

芥川賞候補作の選評で古井由吉が語ったことが的を射ている

少年愛の微妙をめぐるものながら、男の異性愛と平行をなすと私は見る者だが、対象を異性にした場合、この時代ではおそらく、表現は成り立ち難いのだろう。しかし現代の彼等たちを、いささか恥じさせるところのある作品ではある。ただし末尾のバスタオルの悪臭は、「バスタオル」全篇を侵したと思われるが。(古井由吉)

古井由吉の言う通りで、この終わり方で全部台無しになっている。

主人公の教師は、男同士で精子を出し合っても悪臭を放つバスタオルしか残らないと嘆いているのである。これが「バスタオル」というタイトルの意味だ。一部で評価は高い作品なんだけど、個人的には合わなかった。

虐殺器官 伊藤計劃

SF小説である。後進国で内戦と虐殺が頻発する。内戦がおこるエリアに必ず現れるアメリカ人のジョン・ポールという男がいる。ポールは、生まれ持って人間にプログラムされている「虐殺器官」を活性化させることで、人間同士の殺し合いをさせる。

ポールが後進国で殺し合いをさせる動機は、自国アメリカに対する強い愛国心からくる。アメリカでテロが起きないように、テロを起こしそうな国の人間には、自分たちで殺しあって全滅してもらおうというトンデモ野郎である。

虐殺器官の世界では、人がバタバタ死んでいく。女子供も容赦なく死ぬ。映像化したら相当エグイ世界だろう。アニメDVDもあるそうだが、そっちはまだ見ていない。

きょん
きょん

私はSF好きなんだ

しかしこの小説は面白かった。虐殺器官という発想が凄いし、ラストは意外過ぎる。ぶっちゃけ天才かよとも思った。

作者の伊藤計劃は病気のため34歳で他界している。そのため著作も少なく「虐殺器官」を含め、長編は三作品しかない。

虐殺器官[本/雑誌] (ハヤカワ文庫 JA 1165) (文庫) / 伊藤計劃/著

羊をめぐる冒険 村上春樹

村上春樹がデビューしてから三作目の小説。個人的にかなり好きな作品。何回読み返したかわからない。今回も読んだ。内容はちょっと説明しにくくて、一言で言うと、謎の羊を探し求めて北海道まで行ったら、自分の中の何かと再会してしまった。みたいな。訳わからんですよね。でもそんなストーリー。読むと何故かウイスキーが飲みたくなる。

この小説、実は物議を醸しておりまして、冒頭で三島由紀夫の死に触れる部分がある。三島由紀夫が自決した1970年11月25日、何事もなかったように彼女と過ごすシーンがあり「これをわざわざ日付まで入れて書くのは三島の死に対する挑発だ」というものである。村上春樹はときどきそういうことする作家である。

小説に点数をつける本「作家の値うち」の2巻を書いた小川榮太郎は、この三島の件もあり「羊をめぐる冒険」の点数を100点満点中50点とした。

解説では「作家の技術は満点、作家の態度は0点、それで50点」と。

ちなみに「作家の値うち」1巻は福田和也が担当しており、こちらは羊をめぐる冒険に86点をつけている。読む人によって違うようだ。村上春樹、というだけで毛嫌いする人も多い。

きょん
きょん

わたしの採点は90点

羊をめぐる冒険は、初期の春樹作品にたびたび登場する「鼠」という友達の話なんだけど、その友達の正体はもうひとりの自分である。心理学用語でアルターエゴとでもいうのか。鼠は自分の中にある弱さや怠惰が人格化した存在。主人公の冒険はそんなもう一人の(弱い)自分を切り離す自立の儀式のようなものである。

その後も村上春樹はアルターエゴにかかわる小説を書き続ける。近年の長編「街と不確かな壁」でも影という切り離されたもう一人の自分が描かれるが、やっぱり初期の作品の方が尖ってて面白い。

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まとめ 小説を読むことで得るもの

小説を読み終えるには時間がかかる。普通に働いていたらどんどん読む機会がなくなるし、今は小説なんか読まなくても映像コンテンツが無限に溢れている。そんな時代、わざわざ活字の物語なんか読む必要があるのだろうか?

読書は「対話」である。一人の作家が書いた妄想? にとことん付き合い、イメージを共有する作業だ。語り手の意図を読み取り、自分の想像力を織り交ぜて頭の中に映像を作る。作者の意図とズレることもあるが、それもまた読書の醍醐味だ。

「読んでいる最中に全然違うことを考えてしまい、本の内容が頭に入らない」と言う人がいるが、それはわたしもよくある。本の文章の一部を拾ったことから、頭が連想を始めてしまうのだ。漫画や映画と違い、活字だけの空間では脳に空白が生じるので、その空白を埋めるように自由な発想が広がっていく。ある意味で発想力が高まる。そういった連想癖がつくことは、案外仕事にも役に立っている。

直接であれLINEであれ、我々は人に何かを伝えるときは言葉を使うしかない。小説を読むことで得ることができるのは、相手がイメージしやすい言葉の選択肢が豊富になることだ。語彙力とでもいうのか。言葉の選択肢が広がると世界が広がるし、誤解が生じにくい人間関係を築くことができる。

きょん
きょん

役に立ってると言えば役に立ってるかな

ほかにも読んだ小説は

化物語 西尾維新

眩 浅井まてか

推し、燃ゆ 宇佐美りん

禁色 三島由紀夫

イン・ザ・ミソスープ 村上龍

などあるが、続きはまあ、そのうち。

きょん
きょん

読書遍歴について語った過去動画はこちら

【フリートーク】第21回。読書特集。人生を狂わせた本、コリン・ウィルソンの「アウトサイダー」について。最近読んだ本。

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