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ホームレスじゃないよ

映画で観た「ノマドランド」の原作本を読んだ。原作のタイトルは「ノマド〜漂流する高齢者たち」アメリカのジャーナリストが書いた本である。洋書は翻訳者にも報酬が発生するので日本人作家の本より値段が高いんだけど、偶然図書館に置いてあったので借りてタダで読むことができた。せこい。ノマドとは「遊牧民」という意味だそうで、アメリカでは家を持たずにキャンピングカーで移動生活をしている高齢者が年々増えている。その理由は様々だけど、一番の原因は定年後住居を維持できないことなのだという。このキャンピングカーで移動生活を続ける人たちのことをワーキャンパーという。workとcampを合わせた造語だ。ハウスレスと自称する人もいる。ホームレスじゃないよ。

アメリカの2015年の国勢調査によると、一人暮らしの高齢女性の6人に1人は貧困ライン以下の生活をしている。貧困ラインとは最低限生活に必要なものが買えなくなるレベル。貧困ラインを割っているアメリカ人高齢者の数は、女性271万人、男性149万人。これは5年以上前のデータになるので現在はもっと多いかも知れない。公的年金の受給額も男女に開きがあり女性は男性より平均で月341ドルも受給額が少ない。日本円にして約37000円。これは結構な金額だ。

そんな状態なので、住宅を維持するなんてとてもできないし、今の年金受給額では家賃さえ払えない。そこで一部の高齢者たちは、住居を持たないという選択をする。財産を売り払い、そのお金で中古のキャンピングカーを購入して、各州を移動しながら期間契約の仕事をして生きる。稼いだお金は食費やガソリン代、キャンピングカーの修理代となる。中でも多いのはアマゾンの仕事で、アマゾンはクリスマスシーズンなど、買い物が激増する時だけ高齢者を雇う。その労働はけっこうハードで1日中倉庫の中を歩き回り、荷物を運んだり仕分けをしたりする。アマゾンの雇用責任者が言うには、高齢者はいったんやり出したことにはベストを尽くす人が多く、若者と違ってサボらないと言う。

他にもアマゾンにとって高齢者を雇うことにはメリットがある。生活保護を追加受給している高齢者など「雇用機会上のハンデを持つ」とカテゴリーされる労働者を雇うことで25%〜40%の連邦税控除を受けることができる。生活保護受給者がアマゾンで働けば、国は彼らの面倒を見なくてすみ、アマゾンは節税できる。連中からしたらWIN-WIN。高齢者や生活保護受給者はこうして利用される。

家のない高齢者が低賃金で老後も働かされるその光景は奴隷のようにも思えてゾッとする話ではあるんだけど、悪いことばかりではなく、行先で同じキャンピングカー生活をしている人たちとの出会いがあったり、アメリカ中を移動することでその広大な大地の素晴らしさを実感できたりもする。同じ場所にずっと住んでいたらこんな経験はできない。キャンピングカーで移動する人の中には、高学歴の人やそれほど老後の生活に困らないお金を持っている人もいるらしい。もともと遊牧民だった祖先の血が彼らをそうさせているのかも知れない。定住をしないというのはお金の問題ではなく、一つの思想でもある。

私も老後、住居を維持できなければどうするだろうか? そうなったら私は絵が好きだから、絵を描きながら世界を転々とする生活したい。描いた絵はその場で売りさばくのか、あるいはダヴィンチのモナリザのように手放せず持ち歩くことになるのか。どっちにしても放浪は楽しそうだ。一部の人しか得しない資本主義のクソゲーに参加したって金持ちになれないんだから、好きなことして生きるのが一番なんじゃない? 

そんな感じで、私は今のところ何とかこの三階建タワーマンションの1K家賃35000円の部屋を追い出されずにいる。

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