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日本の性別適合手術の現状〜なぜタイに行く必要があるのか?

こんにちは、トランスジェンダー女性のきょんです。本厚木のオカマバー『おかま共和国」でチーママをやってます。

なぜ日本での性別適合手術が困難なのか?

よく男性陣からこんなこと言われます。

「タイのニューハーフ、マジでレベル高い」

「あれならヤれる」

「君も早くタイ行ったほうがいいよ」

長いことオカマやっていると話題に出てくるのが「タイ」という国である。周知の通りタイではニューハーフの存在感が高く、タイ=ニューハーフ性転換手術=タイ、という図式ができあがっている。

日本のトランスジェンダーの方々も、多くはタイで性別適合手術を受けてくる。わたしの知り合いのニューハーフにもタイ産がいる。

しかし、どうして海外にいく必要があるのか? どうして日本で手術を受けることができないのか?

そのことについて書いてみたいと思う。

そんな感じでちょうどいい本発見。

性転師「性転換ビジネスに従事する日本人たち」

性転換手術の体験談を扱った本はたくさんあるんだけど、これは性転換したい日本人をタイでアテンドするお仕事する人たちを扱った本。これまでにない視点で書かれていて非常に面白かった。有益な情報がたくさん書いてあるのだが、残念なことに誤字が多い。校正が甘かったかな。

あと表紙が微妙。表紙のおっさんは性転換アテンド業の創始者的存在の人なんだけど超怪しい。雀荘のマスターにこんな人おるわ。

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この本は前半で、タイで性転換ビジネスをするアテンド業に従事する人たちの具体的な仕事内容や、その仕事をしている動機などを紹介している。そして後半は、なぜ彼らのようなアテンドが生まれたのか? と言う話。

こうしたアテンド業が生まれたそもそもの原因は、日本国内でトランスジェンダーを扱うための法整備や医療が十分に整っていないことにある。

タイでは安い、早い、腕がいい、などと、どれをとっても日本で手術を受けるよりメリットが多い。本来ならば日本国内の性別違和の患者さんは日本で手術を受けれたほうがいいのに どうしてこのようなことになっているのだろうか? 日本の医療で抱える問題とは?

ブルーボーイ事件

日本の性転換手術の実情を語る上で欠かせないのがブルーボーイ事件。1964年、ゲイバーで働く男性が、青木正雄という医師のもとへ訪れ「女性になりたい」と言った。青木先生は彼に性転換手術について説明し「一晩考えても気持ちが変わらなかったら、手術しに来なさい」と伝えた。

気持ちは変わらなかったようで彼は翌日やってきた。医師は彼に睾丸摘出手術を行った。これが1964年5月13日、と記録にある。(稲田朗子、論説、性転換手術と刑法に関する一考察のPDFより)

同年11月15日、噂を聞きつけたのか、さらに二人の男性が青木医師のもとで睾丸摘出手術を行う。ちなみに3人とも20代前半。

翌年1965年、警察は青木医師を優生保護法違反と麻薬取締法違反で逮捕。麻薬に関しては知人に医療用の麻薬を横流ししていたことで、ブルーボーイ事件とは関係がない。

優生保護法28条故なく生殖を不能にすることを目的として、手術、またレントゲンの照射を行ってはならない

※現在は優生保護法は改正されて母体保護法になっているけど、28条の「禁止」においては変更がない。

逮捕のきっかけは1965年夏。「怪しげな女装グループが夜中に騒ぎ、風紀が悪くて困る」との苦情があり、警察が夜の街に捜査に出る。街には女装した売春者がいて問題になったのだが、彼女らは戸籍は男子。警察は男娼(男性が行う売春)に売春防止法を適応できず、取り締まりができない。そんな状態で捜査を続けるうち、男娼の中に一部、睾丸摘出をしている者がいることを確認し、事件の発覚に至る。

この件で、若者に手術を施した医師は有罪判決を受ける。懲役2年、罰金40万、執行猶予3年

判決は、性別適合手術そのものを違法とするものではなく、手術を実施する前の手続きが不十分であり「正当な医療行為として容認できない」ということだった。

現在は「GID」性別違和として診断された者に対しては正当な医療行為とされる。

この事件をきっかけに、性別適合手術にマイナスイメージが拡散され、医療界では触れたくない分野になってしまう。そのことから、手術希望者は海外へ行って性転換手術を受けるようになる。カルーセル麻紀がモロッコで手術を受けたのは、この事件から8年後の1973年。性転換=海外のイメージが定着する。

ブルーボーイ事件から30年間、日本では性転換手術はタブー視され、正規の手術として扱われないままとなった。そのせいで性別適合手術における日本の技術はタイに30年遅れを取ることになる。

あれから30年、日本で正式に性転換手術

ブルーボーイ事件から30年。表立った性転換手術は行われないまま月日がたった。それでも裏では手術は行われていて、このことはペニスカッターという本に詳しく書かれている。多くのMTF患者に対して性転換手術を施した和田医師の波乱万丈の生涯が語られている。

そんな性転換手術がタブー視され続けた日本の医療界にも、ようやく新しい動きが起こる。

1992年、埼玉医大総合医療センターの形成外科医、原料(はらしな)医師は、ある女性から「男性」への性転換手術を希望する相談を受ける。原料医師は交通事故でペニスを損傷した男性のペニスを治し、雑誌の記事になった。それを読んだ女性が、このお医者さんならペニスを作れるのではないかと考え、相談したのだ。

ブルーボーイ事件以降、日本では(法律に乗っ取った)正式な性転換手術は行われていない。合法的に手術するために必要な手続きをするためには、治療のガイドラインが必要なため、病名が必要となる。このことから「性同一性障害」という病名が生まれる。

1997年5月、日本精神神経学会が「性同一性障害に関する答申と提言」を作成、発表。

これが「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」の初版となる。

1998年10月、埼玉医大総合医療センターで、ガイドラインに沿った日本初の性転換手術が行われた。日本国内で裏ルートの性転換手術は行われていたが、正規ルートと呼ばれる性転換手術はこれが初めてである。

その後、埼玉医大では2007年までに357人、性別適合手術を施す。うち6割が乳房摘出手術。陰茎形成21件。

しかし、治療費の問題が生じる。

ガイドラインに沿った正式な手術とはいえ、この当時は保険適用外で、費用は患者の全額負担。初期の手術では500万かかった女性もいたとか。ただでさえ高い手術に、追加の手術が必要になった場合もさらにお金がかかるため、患者のお金が持たないという事態になる。

その後、埼玉医大ではジェンダークリニックの休止を発表。予約待ちしていた30人以上のトランスジェンダーがキャンセルとなる。実質的に、性転換手術ができる病院は限られていて、現在でも日本は数カ所しかない。そのため予約が1年待ちになると言われることもあり、ますますタイの需要が高まることになる。

保健適用する気ないんちゃいますか?

手術費用の高さ、30年遅れた技術の低さ、扱う病院の少なさ。どれをとってもタイに行った方が早くて安い性別適合手術。

しかし、そんな日本もついに

2018年4月より、性別適合手術の保険適用が認められるようになる。

これなら100万かからないくらいで、国内で手術が受けれる?? 

よっしゃー

と思ったのも束の間。

この保険適用、半年で1件しか行われていない。

WHY JAPANESE PEOPLE?!!

日本では「混合診療」というものがあって。

自由診療と保険診療を合わせたものをいう。

自由診療は全額負担なんだけど、治療の一部に自由診療に該当する項目が含まれていると、治療にかかる全ての費用が全額負担となる、わけのわからない制度がある。どうして混合診療がダメなのかは正直わたしにも詳しいことはわからないけど、一応患者さんの負担額をまもるための制度らしい。混合診療が認められたら、お金のない人が受けられない医療サービスが多くなる、とか。

そんな、患者さんに対する救済処置としての保険システムなんだけど

性別適合手術では、マイナスに働いてしまう。

性別適合手術を希望する患者さんのほとんどは、反対の性別に体を慣らすために、まずホルモン投与から入るのが普通なんだけど、ホルモン療法は保険適応外の自由診療に該当するので、ホルモン投与している場合、性別適合手術は混合診療とみなされ、全額負担となる。

えーーー?

WHY JAPANESE PEOPLE?!!

そのため、せっかく保険適用となった性別適合手術も、実際に保険が認められた例は数件しかないらしい。

単純にホルモン療法も保険適用の項目に入れば、こんなわけのわからない状態にはならないんだけど

ホルモン製剤が性同一性障害に有効とする十分な資料が揃っていないので薬事承認が取得できず、公的医療保険の対象に含めることができない、という。

ちなみにわたしが2000円払って打っている女性ホルモン注射の原価は

227円でした

ぼられてます

こんだけ複雑なのに、戸籍変更が難しい日本

というわけで、日本はこのように、保険の問題、手術してくれる病院の少なさ、などさまざまな問題を抱えていて、結局タイに行ったほうが手っ取り早いという結論になる。

そして

医療はいまいち消極的なくせに、戸籍制度は厳しい。

日本では性別の戸籍変更は「生殖機能がないこと」「性器の見た目をクリアしていること」が条件となる。

性別の取扱いの変更

  1. 二人以上の医師により,性同一性障害であることが診断されていること
  2. 20歳以上であること
  3. 現に婚姻をしていないこと
  4. 現に未成年の子がいないこと
  5. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  6. 他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

つまり、戸籍の性別を変更するにはどうやっても外科手術が必要というわけなんだけど、肝心の手術の法整備が整っていない状態なので、制度的に矛盾が多い。

この辺は非常に問題だと思うのだが、簡単には認められない理由もあるようなので一枚岩とはいかないようだ。

ちなみにタイは性に関しては自由なイメージがあるけど、タイでは性別適合手術を受けても、生まれた性別の戸籍は変えられないし、同性婚も認められていない。青く見える隣の芝生も、実際はなかなかに複雑です。

動画も見てね

このことはYoutubeでもお話しさせていただきました。できるだけ簡潔にしたつもりですが、それでも長くなってしまったので2本に分けました。ぜひご視聴ください❤️

【性転換】日本の性転換手術の実情vol.1 制度編。どうして手術のためにタイに行く必要があるのか?ややこしい保険制度。混合診療の問題とは?
【性転換】日本の性転換手術の実情Vol.2 歴史編。タイに30年遅れをとった日本の性別適合手術。ブルーボーイ事件とは。



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